高瀬洋さんを偲んで 2025年6月12日(木)

いつもコンサートにご来場くださる高瀬良洋さんの息子さん・洋さんが55歳の生涯を終えられました。











高瀬さんとお知り合いになった経緯に関しては、大変話が長く、また、珍しくまじめな部分も多くなりますが、ぜひ最後までお付き合いくださいませ。

まずは、過去のエッセイ(2008年)を貼り付けます。(2作のエッセイをまとめました。現在のブログとは文体が違います)

ダメでもともと。突撃精神瞬間着火

2008年6月のある朝、職場で隣の席に座っている理科教師のMちゃんがこんなことを話してくれた。
「真理ちゃんならひょっとして興味があるかな~と思って言ってみるんだけど、今度金沢で『クリスマスレクチャー』って言うのがあるけど行ってみない?・・・あっ、でも、行きたいからって申し込んでも、ものすごく応募者が多いと思うから、行けるとは限らな・・・・・・」
「?クリスマス・・・・」
私が
「サンタさんのお話でもあるのかな」
と思っていると、その思いを見透かしたようにさらにMちゃんは続けた。
「これ、かなり前からイギリスでやってるレクチャーで、私前から行ってみたかったんだけどね。それって、世界的な科学者が楽しく科学のお話をしてくださる、ま、とにかくすごいの。それを今年日本でも・・・もちろんイギリスではクリスマスだけど、日本では夏やることになって、1回目は東京、で、2回目が金沢!」
 
私は、判る判らないは抜きにして(本当は抜かないほうがいいけど)自分の知らない世界のことを聞くのが大好き!それに「世界的な!」なんて言葉がついたりしようものなら、もうドキドキワクワク。
さすがMチャンは私のそういうところを見抜いており、私に声をかけてくれたわけだ。

が、話しているうちにふと気づいた。申し込んでも行けるかどうか判らないし、私が聞いてそのレクチャーが判るかどうかもわからない・・・・。
だったら☆
私の突撃精神に火がついた。
「私、そのレクチャーの休憩時間とか前座とかで歌わせてもらえないかな~?」
Mちゃん、あまりの話の飛躍にびっくり。
「・・・・・あ~・・それ・・・なんていうか、・・・ちょっと無理じゃない・・・・・」
遠慮しがちにはっきり言われたが、私はもうすっかりその気になっていた。そして
「主催の読売新聞に『歌わせてくださいませんか』ってメールしよ~っと!」
あきれてものが言えないという雰囲気をかもし出しているMちゃんを無視して、私はさっさと次のようなメールを読売新聞に送信した。

    ✉✉✉✉✉✉✉✉✉✉✉✉✉✉✉✉✉✉✉✉
<読売新聞社様>
いつもご苦労様です。
さて、以下の情報を拝見しました。
<8月1日、2日 石川・金沢工業大学多目的ホール
各日午前11時~午後2時半
【講 師】 マーカス・デュ・ソートイ氏(オックスフォード大教授)
「数のミステリー」
 世界的に有名な数学者が、数の不思議や面白さを、実験やデモンストレーションを交えて解き明かします。参加無料>

現在ソプラノ歌手として様々なところで歌わせていただいていますが
ぜひこのような場でほんの数分でも前座、又は休憩時間の余興として
歌わせていただければと思いメールさせていただいた次第です。
興味をお持ちいただけましたら、ご連絡をお願いいたします。
<西野真理プロフィール>
西野真理 (歌) 武蔵野音楽大学声楽科卒業
‘01年21世紀日本歌曲コンクール第1位
‘02年奏楽堂日本歌曲コンクール入選
‘03年奏楽堂日本歌曲コンクール第2位
‘03年以来、東京・音楽の友ホール「日本歌曲シリーズ」に出演
‘06年榛名日本歌曲セミナー演奏助手
現在までに「あまんじゃくとうりこ姫」「アイーダ」「魔笛」「ちゃんちき」「フィガロの結婚」等のオペラに出演
‘05、‘07には石川県立音楽堂コンサートホールで0歳児からのコンサートに司会兼歌手として出演し好評を博す。かほく市在住
✉✉✉✉✉✉✉✉✉✉✉✉✉✉✉✉✉✉✉✉

送信してしまうと、もうすることなんてなにもないわけで、そのことはあっという間に私の頭から消えてしまった。

6月26日・火曜日の夕方電話が鳴った。平日夕方の電話は怪しい。
「マンションを買わないか」
「壁を塗らないか」
今日のは
「読売新聞の・・・」
「うちは、2紙取ってるからいらないよ~」
・・・・・・・・・・・・・・と言わなくて良かった!!!!!
声の主は続けた。
「支局長のヤスエと申します。西野真理さんでいらっしゃいますか?先日はメールをいただきありがとうございました」
「えっ!あ、ありがとうございます!」
ヤスエさんからの電話の内容はおよそ次のようなものだった。

大変面白そうな申し出で、こちらも大変興味がある。しかし『クリスマスレクチャー』というのは、それこそノーベル賞級の学者さんがいらっしゃる会で、私が勝手にいろいろ決めるわけに行かない。こちらの担当教授の○○さんと今度相談してみようと思うが、歌ってもらうことになるかどうか、現段階で約束はできない。それでも了解してもらえるようなら、日程を空けておいてほしい。もし歌っていただけなくてもご希望があれば西野さんに席をご用意してもよい。ただし、立ち見になるかも。また、これとは別に読売新聞社ではほぼ毎月1回、文化活動として講演会などをしている。そういう会に歌っていただくことは可能だろうか?
 
「もちろんです!日程も空けますし、お返事も前日までならOKです!」

<イベント申し込みからの展開>
当然歌わせてもらうことはできなかったが、読売新聞北陸支局長・安江さんが私に興味を持ってくださり、その後開催された筋ジストロフィー患者・四方健二さんの自作詩朗読会で歌わないかと声をかけてくださった。
その朗読会で歌わせていただいた後、ご来場中の同じ筋ジストロフィー患者である息子さんをお持ちの高瀬さんから
「医王病院でも歌ってもらえないだろうか」
というお手紙をいただいた。

そのお手紙をいただいて1週間ほどのちの富山レッスンの帰り、金沢森本インターから一般道へ降りようとしたとき、その正面に医王病院を発見。つい、いつもの突撃ボランティア精神が沸き起こり病院を訪問することにした。

医王病院にて

<医王病院へ>
上記のような経緯で何のアポイントもなく医王病院へ足を踏み入れたが、病院はいつも突撃ボランティアを行っている老人ホームのように簡単に
「さあどうぞ歌ってください」
とはいかなかった。
覚悟はしていたのでそのまま帰ろうとしたが、一応高瀬さんの名前を出してみると少し様子が変わり、高瀬さんに電話で確認していただけることになった。

看護師さんが高瀬さんの携帯に電話をされると、高瀬さんはつい30分ほど前にこの病院を出て家へ向かわれたところで、私が来ていると知ると、
「すぐ戻るから待っていて欲しい」
とのこと。
高瀬さんが電話で私のことをどんなふうにお話くださったかは不明だが、この後すぐに歌わせていただけることになり、あちこちの病室を訪ねて歌いつつ高瀬さんをお待ちすることになった。

<病室の様子>
詩の朗読会でお会いした四方さんの様子から、筋ジストロフィーの患者さんのことを知っているつもりでいたが、一人にお会いするのと、たくさんの患者さんを一度に目にするのは全く感じが違っていた。
一人ひとりの心拍を表示する機械、呼吸をサポートする機械、痰を吸い出す機械・・・その他見たことのないたくさんの機械がところ狭しと並び
「私がつまづいて機械を倒したりコードを踏んだりしたら命にかかわるかもしれない!」
とはじめのうちとても緊張した。













<高瀬さんのお話>
しばらく歌っているうちに高瀬さんが到着。
その後は高瀬さんのご案内であちこちの病室を回ることになったが、その間に高瀬さんから次のようなことをお聞きした。

・・・何十年か前だと、筋ジス患者は20歳位くらいまでしか生きられなかった。体中の筋肉が次第に衰え、20歳くらいには呼吸するための筋肉が動かなくなるから。しかし、人工呼吸器(名前は確かではない)が開発され、生きられるようになった。自分の息子も小さいころは普通に歩いていたのがだんだん歩けなくなり、車椅子になり、人工呼吸器になり。私自身も絶望したり、それはそれは色々あって・・・・

高瀬さんの話しぶりは本当にあっけらかんとして、いわゆる
「達観した」
という表現がぴったりだった。
たくさんのことを乗り越えていらしたんだなあと思った。

<想像を超えた病室>
「西野さん、一人でこういうところに入ることはないだろうから、ここでも歌うといいよ」
と高瀬さんに案内されたのは、ベビーベッドのたくさん並んだ小児病棟。
そのベッドの間を縫うように歌いつつ見た患者さんたちの姿は想像を超えたものだった。
それも、一人ひとり状態が違っていた。
その様子の違いをどこまで書いていいのか、また書いたとしてもどこまで正確に描写できるか、こうして書きながらずっと迷っている。
一目でわかることは、体の大きさ。
体全体の大きさも様々なら、体の部分的な大きさや、おそらく動かすことはできないであろうと思われる手足、いや、手足に限ったことではない、一生ここから、このベッドから出ることはできないだろうと想像される姿に、私の心臓の鼓動は一気に速くなった。
それでも一生懸命歌っていると高瀬さんが
「あ~この子喜んでる!」
残念ながら私の目にはその患者さんの感情は全く伝わってこなかったが、そういわれたことは私をとても安心させてくれ、歌い続ける力になった。

<衝撃の事実>
私はその後、この日の出来事を生徒や友人に話した。できるだけ正直に正確に。
しかし、この
「小児病棟」
という表現が大変な思い違いであったことを、2度目にボランティアに行ったとき知ることになった。

2度目に伺ったときも高瀬さんに案内されて病棟を回ったが、以前から手狭になった医王病院の後に新しい病棟が建設されていて、どの病棟も新しい建物に移ったり、今まで使っていた病室を広く使えるようになったりしていた。

新しくなった病棟を回りながら高瀬さんが私の勘違いを見透かすように
こう言われた。
「西野さん、あの子たち小さいから子供だと思ったかもしれないけど、みんな20歳過ぎてるんだよ」
「え!・・・・・・・・」
小児病棟で見たこととして生徒や友人に語ってきたのに、あの患者さんたちはみな、成人した方だったのだ。
この事実を知ったことがここ数年で私が受けた衝撃の中で一番大きなものだったように思
う。

ここからが2025年6月12日のブログです

横浜2泊3日の帰途の車内、高瀬精治さんのfacebookへの投稿に気づきました。(精治さんは良洋さんの息子さんです。実名や投稿記事・写真の使用に関してはご快諾いただきました)

大好きな、あんちゃん(兄)が令和7年6月7日19時30頃天国に旅立ちました🪽
55歳でした!
あんちゃんは、前にも書いたと思いますが先天性の筋ジストロフィーという病気で20歳ごろ自力で呼吸ができなくなり喉を切開して呼吸器を取り付けました!
それから35年間病院生活をしていました。
周りの環境も良かったのかこの歳までこの病気で生きた方はいないそうです。
とにかく映画が大好きで亡くなる前日もゴジラの映画(ビデオ)を見てたそうです
^ ^
自分が病院に面会に行った時も必ず何かしらの映画を一緒に見るのが楽しみでした。
ミッションインポッシブルの最新ファイナルレコリングもDVD📀を買って一緒見ようと思ってましたが、とても残念です😢
またあんちゃんは、呼吸器をつける前はケンタッキーフライドチキン🍗が大好きでよく食べていましたが、呼吸器をつけてから一度食べたことはあるんですが、喉に詰まり苦しくなってそこから食べ物一度も口にすることはありませんでした。
最後に実家に帰り食べさせてあげることが出来たので、あんちゃんも喜んでいることと思います^ ^
それからあんちゃんの人生の大半を一緒過ごしてくださった横川先生も前日にあんちゃんの顔を見に来ていただきありがとうございます。
横川先生が来てくれてあんちゃんも嬉しかったと思います、一緒にいた時の笑顔が浮かびました^ ^
あんちゃんは、いろんな方にサポートしていただき55歳まで生きることが出来たと思います。
医王病院の先生、看護師の方々、これまでに関わってくださった全ての方々に感謝を申し上げます。
ありがとうございました🙇‍♂️
あんちゃんは幸せものでした^ ^
天国から笑顔で見てると思います。
あんちゃんまたね👋

SAに立ち寄った時、高瀬さんにお電話しました。
先に貼り付けたエッセイにもあったように、高瀬さんは達観した方。とても明るくお話しくださったことで、私はとてもほっとしました。
「明日お宅へお伺いしていいですか?」
ということで、本日お伺いしました。

いつも通り、明るく元気な高瀬さんではありますが、お仏壇横には洋さんの写真。その前で
医王病院でのボランティアコンサートのときには聞けなかった詳しいお話を伺うことができました。
難しくて1度では覚えきれなかったので、順不同、箇条書きでご勘弁ください。

・洋さんは小学生で発症、20代前半で一度呼吸が止まったこともあったが、ちょうど人工呼吸器が開発され、それによって延命が可能になった
・意思の疎通は、口の動きやまばたき
・寝返りも打てない、ちょっと痒くても掻くこともできないのに、洋さんは「つらい」ということはなかった
・筋ジストロフィーの専門病院は北陸には石川県の医王病院だけ、ここから一番近いのは滋賀県
・この病気だといろんな薬が使えない。これをこちらに使えば、あちらに悪い
・洋さんは何度か呼吸が止まったことがあったが、そのたび自力で呼吸を戻した
・普通の体力の人なら呼吸が止まった時胸部圧迫という方法もあるが、そんなこと絶対できない
・筋ジストロフィーとよく似た病気でALSというのもある
 ※これについては高瀬さんもよくわからないとおっしゃったので、調べてみました。
観点ALS筋ジストロフィー
原因    神経      筋肉
発症年齢   成人        小児が多い
進行   急速     緩やか(タイプによる)
知能・感覚   保たれる     多くは保たれる
治療   進行遅延薬あり   対症療法中心、遺伝子治療研究中

洋さんのご冥福と、難病の治療法が見つかることを心よりお祈りしてこのブログを終わります。


0 件のコメント:

西野真理の色々なお話

あわや迷惑メール 2025年8月25日(月)

目覚めてスマホを見るとGoogleからの警告 「Gmail の保存容量の使用率が 50% になりました」 前回警告時は75%を超えていて、 . 「Google ドライブ、Gmail、Google フォトで共有している Google アカウントの保存容量 15 GB のうち 10....