カント「永遠平和のために」100分で名著 要約(2022年7月4日)

 西野真理書き起こしシリーズ   100分で名著 

カント「永遠平和のために」 指南役 萱野稔人

4回シリーズ ※今回は全書き起こしではなく、番組のまとめです

 

<はじめに>

撮りためたこの番組の中から、これを書き起こそうとしたのは202274日。ウクライナとロシアとの戦争がいつまでも終わる気配のない今です。

 

<基本情報>

・著者 イマヌエル・カント 1724-1804

(ドイツ・カリーニングラード※ロシア領生まれ)

1795年に書かれた カント71歳の作品

・代表作「純粋理性批判」はやはりこの番組で取り上げられていて、書き起こし済み

 

~内容~

・現代でも全く色あせない内容

・国家とはなにか?

・国家と個人との関係

・国家と国家の関係

 

~カントとカントの生きた時代背景~

16歳で大学へ進学

30代で哲学者の道へ、46歳で大学教授に

57歳で「純粋理性批判」発表

 ※道徳を重視し、嘘を絶対認めない厳格なもの

1789年 フランス革命勃発。国民主権へ。

1792年 戦争状態にあったフランスとプロイセンの間でバーゼル平和条約が結ばれるが、この条約にカントは不信感を抱き「戦争を永遠に終わらせることはできない。これは単なる停戦条約でしかない」と批判。

 

<第1回「戦争の原因は排除できるか」より>

・国家間に永遠の平和をもたらすための6つの項目

 ①戦争原因の排除

②国家を物件にすることの禁止

③常備軍の廃止

④軍事国際の禁止

⑤内政干渉の禁止

⑥卑劣な敵対行為の禁止

 

萱野

理想主義的すぎないかと思うが、たしかにただ理想を言っているだけじゃな

いかというイメージが定着したのも事実。

しかし、文章をよく読んでみると少し違う。

特に③

常備軍の兵士は、人を殺害するためまたは人に殺害されるために雇われるの

であり、もっとも国民が自らと祖国を防衛するために外敵からの攻撃に備え

て自発的に武器をとって定期的に訓練を行うことは常備軍とは全く異なる

事柄である

つまりカントは絶対王政の頃の傭兵のことを言っている。傭兵はダメだが、

国民自らが祖国を守るために団結して軍備を整えることは当然いいですよと

言っている。単純に軍隊をなくせば戦争はなくなると言っているわけではな

い。

 

カントは

「人間はもともと邪悪な存在。戦争が起こるのが当たり前。平和のほうが奇跡。平和状態は新たに創出すべきもの」

 

平和状態は新たに創出すべきものである。絶対行為が存在していないという

事実は、絶対行為がなされないという保証ではない。人は市民的・法的な状

態に入ることで相手に必要な保証を与えることができるのである。

 

<第2回「世界国家か平和連合か」より>

第二次世界大戦後に国際連合が作られたが、これはカント著書「永遠平和のために」が元になっていると言われている。

・積極的な理念・・・世界国家 正しい理念を達成するためには何をしても許されるという方向へ向かいがち

・消極的な理念・・・平和連合 これこそ世界を平和に導く

               みんなが折り合えるようなやり方で達成で

きる目的を定める

<第3回「人間の悪が平和の条件である」より>

人間の本性=Nature=自然の摂理

・すべての自然の動きの中に、人間の自然傾向をあてはめて考える

・自然の摂理が平和を保証する

 ①自然はあらゆる地方で人間が生活できるよう配慮した

 ②自然は戦争によって人間を人も住めぬような場所に移住させた

 ③戦争によって人間が法的な状況に入らざるを得ないようにした

・そもそも人間は邪悪であり、自然状態では戦争をしがち。しかし戦争が起こり敵対する集団があらわれると味方同士が団結せざるを得なくなる。そのため何らかのルールや法律が必要となり、結果として平和状態が生み出される

「邪悪な人間が起こした戦争が平和を作り出す」

 

ここまで読むと「戦争があるからこそ平和が訪れる」みたいに誤解する人もいる。違う。

・人間には戦争をする傾向があるから平和への意識も高まる

・道徳や理性の導きだけでは平和は作れない。人間の本性・自然的傾向に裏打ちされなければ平和は達成されない

・人間の本姓が邪悪であることを認めて、理性によってその傾向を活用すれば平和は導かれる

 

国家も利己的

人間が利己心を満たそうとする場合の2つのベクトル

①暴力・・・収奪      短期

②非暴力・・法・商業活動  長期

戦争をしないで問題解決することが、それぞれ得になるような環境整備をど

うするか

 

行政権と立法権が一体化すると戦争が起きやすくなる

 

<第4回 「カントが目指したもの」より>

この本では「道徳と政治の一致」ということについて半分くらい費やしてい

るが、政治は道徳的に営まれれば永遠平和が実現すると言っているわけでは

ない。カントにとって永遠平和が実現するというのは、各国が法を尊重し法

に基づいて紛争を解決すること。法が多くの国で守られ実現するためには道徳に着目することが大事だ。

公法の状態

あらゆる国家が共通の法に従っている状態

 

~道徳の内容と形式~

道徳を形式で考えることについてカントは

「汝の主観的な原則が普遍的な法則になることを求める意思に従って行動せよ」

と言っている。

つまり、「形式で考えると道徳は誰もが行ってもいいと思えることをどんな場合でも行わなくてはならない」という普遍的な法則になる。ある行動を誰がやったとしてもいいと思えるならば、(カントは嘘はいけないと言っているが)仮に嘘をついても道徳的になる、ということ。

 

誰もが例外なく従わなくてはならないと迫ってくる道徳の力こそが道徳の形式。

 

・形式注目する=公平性を確保する

・法を守ってもらうためには、法があらゆる国にとって公平でなければならない。

・公平性を実現する過程には終わりがない。少しずつ公平性を高めていくべき。公平性を少しでも実現していくことが、法に対する尊敬。守ろうとする気持ちを高める。

 

~公開性~

・すべての人の眼差しに耐えうるもの

・法は公開されてたものでなければ法としての意味はない

 

カントは

「永遠平和を実現するには人間愛よりも法に対する尊厳が大切」

と考えた。平和のためには理想を超えた哲学が不可欠。

 

萱野

国家と国家の関係の中でいちばん重要なのは、法律を強制する機関がない中で各国に法律を守ってもらうことが一番大事。各国が法律を尊重するためには法律が公平なものでなければならない。

でも国際的な関係というのは、それこそ強国が自分の都合のいいように法律を定めることが多い。だからこそどうやって公平性をどうやって実現するかということについてカントは考えをめぐらしたのだと思う。

 

核拡散防止条約によって核保有国は自分が持っていることを認めているのに、他の国は持っちゃいけないと言っている。まさに強国の論理。最終的には核をなくしていくという法律ではあるが。

 

公平性の実現は時間はかかるが方向性だけは明確。

 

永遠平和はあくまでも努力目標みたいなもの。欲望・利己心をうまく活用する方法を考えて実現しようという努力目標。人間が利己心に満ちて行動している中にも平和に向かっていく要素が実は隠れている。それをうまく活用すれば少しでも良い世界に進める。

2 件のコメント:

sapporo1972 さんのコメント...

むかし哲学をかじったことがあるので、アリストテレスの「ニコマコス倫理学」と
カントの「永久平和のために」のまとめ、拝見しました。
良い復習になりました。若い頃に読んだだけでは身についていないことが、
多々発見できました。ありがとうございます。
今時、倫理的観点から人間全般を見直すことはとても必要と感じます。
プーチンのウクライナ侵略でも、安倍元総理の狙撃事件でも、地球温暖化でも
国連の機能不全でも、すべてが「人倫」の問題ですから。
いわゆる「道徳教育」、「マナー」のレベルにとまらず、人類や地球としての
マナーを再考すべき時代に入っていると感じました。

バリトン系ソプラノ西野真理のブログ さんのコメント...

いつもお読みいただきありがとうございます。
哲学の勉強をされてその「復習」と書いていただきお恥ずかしい限りです。
私の場合この書き起こしが「はじめて」で、基礎がなにもないので、自分で書き起こしたものを読み返すだけでも再発見だらけです。
書き起こしたことで良かったことは、sapporp1972さんが
「哲学を倫理的観点から」
というお言葉が少しわかることです。
書き起こす前だったら、なんのことだかさっぱりわからなかったと思いますから。
アリストテレスもカントも素晴らしい方ですが、その方たちも完璧ではなく、それをより良くしていくことが後の世に生きるものの義務だったり、更にその後に生まれくる人への責任だとつくづく思います。

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