兼六公園唱歌 (西野真理著「美女エッセイ」PART5.6合冊版より) 2023年2月9日(木)

 兼六公園唱歌

<はじめに>
これは過去に西野真理著「美女エッセイ PART5.6合冊版」に掲載したものです。そのためいつもとは文体が違います。
また、久しぶりに読んで、このことが19年も前のことだとわかりとても不思議でしたし、楽しめましたし、書き残していてよかったと思いました。

<2004年 2/19(木)>
Mさんから電話がかかってきた。
「あなた、土日あいてる?まだ具体的にはなにも決まってないし、いつになるかも判らないけど、ほんの少し歌っていただくことがあるかも知れないから都合聞いとこう思って。ノ-ギャラよ」
「大抵あいてます」
なにも具体的ではないが、ノ-ギャラだけは具体的らしかった。

<翌日 2/20(金)>
Mさんから電話がかかってきた。
「明日の土曜日、収録したいんだって。兼六園にある日本武尊の歌で、その銅像前で歌ってるのを撮るらしいわよ。楽譜FAXするわね」
「歌うのはいいとして、私が一番気になるのは何を着るかってことなんですけど、どうなんでしょうか?」
「兼六園の中だし、あんまり仰々しいのも変でしょう。セ-タ-とスカ-トでいいと思うわ」
「え-!ドレス着ずに歌うんですか。恥ずかしいなあ・・・・」
このあたり、普通の人の感覚とずれているかも知れない。しかし、たとえて言えば、野球選手が普段着のままバッタ-ボックスに入るのは恥ずかしいんじゃないかと思うのだが、その感じ。
「じゃ、どっちでもいいように、準備だけしてきて」
「はい」

 結局その番組は
 ・夕方6時台のMROテレビ(北陸放送)「NEWS ON 6」のなかの、「それって、なんで屋?」という、視聴者からの質問に答える毎週月曜日に置かれているコ-ナ-。
 ・今回は「兼六園は江戸時代のお庭なのに、どうしてあまり雰囲気に合っているとも思えない日本武尊の銅像がここにあるのですか」という視聴者からの質問に答える。
 ・その質問に、元兼六園事務局長の下郷さんが答えてくださるのだが、「実は、こんな歌もあったのですよ」とこの歌を紹介され、それを歌う。

 ついでなので、なぜ日本武尊の銅像があるのかを書いておこう。
 ・西南戦争のとき、石川県からも2000人が出兵し400人亡くなった。その慰霊のため何か建てようということになった。
 ・日本武尊は熊襲を倒しているので、それを西南戦争で熊本と戦ったことに掛けた。
 ・当時「公園」なんてものは兼六園くらいしかなく、今のように規制も厳しくなく、建てるならここしかなかった。
 ・確かに兼六園その物からみるとちぐはぐな物ではあるが、明治時代に建てられ存在はすでに認知され、昔の子供たちはこの銅像が大好きだった。過去に何度も移転話しが持ち上がったが、結局移転されずにここにある。(昔は入場料も必要なく、だれでも自由に入れて子供の遊び場でもあった)

もっとついでに書くと、日本武尊像にカラスがとまらないことに気付いた金沢大学の先生が、そのなぞを科学的に研究して、2003年に「イグノ-ベル賞」を受賞された。










<大問題の曲>
FAXがきた。
 「兼六公園唱歌」という。
字が潰れていてよく判らない。しかも、昔の、ある特殊な言葉がたくさん使われていて、意味がよく判らない。21番まである歌詞の、私が歌う9番と10番を、敢えてひらがなで書かせていただこう。

9 くまそをたおしえぞをうち みいずもたかきやまとたけ
  みこのおばしのたちかぜに なびかぬくさきあるべしや

10 しこのみたてとくにのため こころづくしのたたかいに
  いのちをすてしますらおが ほまれはのこるじんちゅうひ

楽譜はまあ判る。が、なぜか2種類、おまけにどっちにしても大差ない「浦島太郎」そっくりのメロディ-がついており、作曲者の注釈に
「どちらでもお好きな方をお歌いください」
とある。こういうのは謙虚というのだろうか。
作曲者のことが気になったので、インタ-ネットで検索すると、九州の高校の校歌も作曲されていると判り、そのペ-ジに入ってみると校歌のメロディ-が流れた。浦島太郎に似ていた。

ここで、この曲について整理すると
 ①明治時代に作曲された。
 ②歌詞は21番まであり、兼六園内の各所を案内する内容になっている。その9番と10番が日本武尊象に触れた部分。言葉はやや難しいが、この詩を見ながら園内を散策すると楽しいかも。
 ③大正天皇が皇太子時代に来園された時にも歌われた。
 ④伴奏譜はなく、メロディ-のみ。

<収録前夜>
私は比較的曲の覚えは早い方だ。しかし、この曲はどうしても頭に入ってこない。歌詞が覚えられない。
アイロンをかけながら、お風呂につかりながら、テレビを見ながらその曲を何度も口ずさんだが覚えられない。
私は歌詞を枕元においたまま眠った。

<収録当日 2/21(土)>
①最強アドバイス
 今日は西野真理42歳の誕生日だ。
 42歳になったせいか、歌詞が覚えられない。
 11:30テレビ局の約束になっているのにどうしよう。
 しかたがない、
「困ったときの関頼み。関先生に聞こう!」
 私は先生にメ-ルを打った。
 直ちにやってきた返信メ-ルの言葉は明快だった。
「カンペをつくりなさい!」
さすが、現場たたき上げのソプラノ歌手!下手な教訓じみた話などではない、まさに今必要なアドバイス。わたしはすぐにカンペを作り、返信した。
「作りました」
次の返信にはこう書かれていた。
「大きいのを作りなさい。もしそれが使えないようなら、またメ-ルください」

②ディレクタ-N青年











担当ディレクタ-のNさんは、昨年入社したばかりの青年で、私にはつい数年前中に中学校を卒業した生徒にしか見えなかったが、なかなか頑張っている様子で、下調べをしたたくさんのことを私に教えてくれた。
また、
「FAXでもらった楽譜は字が潰れていて読みにくいんですけど」
と話すと、彼はすぐに読みやすい楽譜を持ってきてくれた。潰れた字を適当にカンペに写してあったが、きれいな楽譜と比べると、いくつか違っていた。

いよいよ収録だが、事前に聞いていた兼六園の日本武尊像の前で撮るという案はあっさりやめになっていて、局内のスタジオで撮ることに変更されていた。一応ドレスも持っていったが、これもいらなかった。

スタジオに入ると、お化粧直しをする暇も与えられず、収録に取りかかろうという様子だったので、あわててNさんに
「この顔のままでいいんですか?」
と聞くと、彼はほんの1秒ほど私の顔を見て
「別に、いいと思いますけど・・・・」
顔はあまり映さないらしい。

③収録
私はあくまでも歌いにきたのだが、音楽関係者以外の人から見ると、音楽をやる人間は、歌も歌えばピアノも弾くと思われていて、大変あたりまえの口調で
「え-と、それじゃ西野さん、まずピアノを弾いて練習してるって雰囲気のとこからとりますのでピアノ弾いてください」
(心の声:あのね-、私、ピアノ下手なのよ。しかも、これ、ピアノ伴奏ついてないんだから。ピアノ弾かせたきゃピアニスト連れてきてよ)
私は笑顔で心の声を隠し
「はい、こんな感じでいいですか」
と、適当に伴奏をつけて弾いた。なにしろ元が浦島太郎。和音は3種類ほどでよく、私でも即興で何とか弾けた。
「それじゃ、次、歌ってるとこ」
これは、Nさんにカメラ横でカンペを持ってもらい、すんなり終了。

④Nディレクタ-との雑談
収録が終わって、Nさんと話すうち、彼は私のエッセイ集を1冊買ってくれることになった。(買わせることに成功した)
「あの-・・・西野さんってエッセイ集出すのが夢なんですか?」
「夢?う-ん、別にこれが夢ってことでもないし、ただ楽しいから作ってるだけ・・・ところでNさんの夢はなに?」
「えっ・・・・僕ですか・・・・・・」
「この会社やめること?」
「や、やめてくださいよ、こんなとこで大きい声でいうの!」
そこで私は先生根性丸出しで彼にこう言った。
「今は自分の思いと違うこともあって辛いだろうけど、28歳位になると給料もそこそこになって、しかもだいぶ慣れていいこともあるからね。それにね『いつでも辞めてやる!』と思うと、案外続くものよ。頑張ってね」

一般の人から見ればこの不況のさなか放送局に採用されるなんてエリ-ト中のエリ-ト。ガンバレ、Nディレクタ-。

<2/23(月)放送>
前日、たくさんの友人知人に
「MRO NEWS ON 6に出るから見てね」
とメ-ルを送り、私もテレビ前にスタンバイ。

・ピアノを弾いているシ-ンは意外にいい感じ。
・9番を歌うところは顔のアップで、芸能人の美しさを再認識。
・10番は、兼六園の様子と歌詞が画面に出て、私は声だけ。
あの~自分で言うのはちょっと恥ずかしいんですけど、この部分、すごくいい感じじゃないでしょうか。まるで、「みんなのうた」とかみたい。

<おわりに>
先程、ひらがなで書いた歌詞、漢字で書いておきましょう。

9 熊襲を倒し蝦夷を伐ち  御威稜も高き日本武
  御子のおばしの太刀風に 靡かぬ草木あるべしや

10 醜の御盾と国のため   心づくしの戦ひに
  命を捨てし益荒男が   誉れは残る盡忠碑

<久しぶりに読んだ感想>
・19年も前のことですから、現在19歳の方にしてみると、感覚としては「大昔」でしょう。しかしこうして書き残していたおかげで、昨日のことのように思い出すことができました。
・「FAX」という記述がありましたが、現在我が家にFAXはありません。
・MRO放送局のあの時のディレクターNさん、現在もTVに出演していらっしゃいます。頑張ったんだね!そういえばあの時「ぼく、アナウンサー志望だったんです」って言ってたっけ。
・「この歌にあわせて兼六園のあちこちで歌う」って企画、面白そうなので、どこかTV局さん、取り上げてくださらないかな~。もちろん西野真理が歌います。ドレスとティアラで。

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