ショック・ドクトリン③(書き起こしシリーズ NHK「100分で名著」より)2023年6月22日(木)

 書き起こしシリーズ NHK「100分で名著」より

ショック・ドクトリン (THE SHOCK DOOCTORIN)

副題:慘事便乗型資本主義の正体を暴く

著者 ナオミ・クライン
解説  堤未果(ジャーナリスト)
聞き手 伊集院光
第3回 戦争ショック・ドクトリン  株式会社化する国家と新植民地主義

<はじめに>

今回はショック・ドクトリンの本家本元、アメリカが自国に仕掛けたショック・ドクトリン。9.11、これによってショック・ドクトリンが世界規模に広がる。戦争というものの定義が変わってしまう。国による国民の監視・言論統制が正当化されてしまう。そして新しい「新植民地主義」というものができてくる。一気に規模が広がる、もっと巨大化していく。

<9.11前のアメリカでの新自由主義経済の進め方>

アメリカの経済学者ミルトン・フリードマンが唱えた新自由主義。
1980年代、レーガン政権以降アメリカ政府はフリードマンの経済政策の3大ルール
・規制緩和
・民営化
・社会保障の削減
を推し進めた。
水道・電気・高速道路・ゴミ収集など公共サービスが民間企業に売却、あるいは業務委託されていく。

国家機能のこうした手足が次々に切り落とされていったあとに残ったのは、「中核」だけだった。

だが、軍、警察、消防、刑務所、国境警備、秘密情報、疾病対策、公教育、政府機関の統括、といった国家統治の根幹に関わる機能を民間企業に渡すというのは国民国家とは何かということに関わる問題だ。

ところが初期の民営化がもたらした利益があまりにも大きかったことから、味をしめた多くの企業は即収益につながる次なるターゲットとして、これら政府の中核機関に貪欲な目を向け始めていた。

「政府機能そのものも民営化してしまえばいいのではないか」

そう考えた人物がいた。レーガン大統領以降、歴代大統領の側近を務めたドナルド・ラムズフェルドとディップ・チェイニーそして後に大統領となるジョージ・W・ブッシュ。
ラムズフェルドとチェイニーはフリードマンの
「民営化すれば市場はうまくいく」
という理論を実践。
彼らは政府と民間企業の間の、見えない回転ドアを利用した。

回転ドアとはなにか?

まず民間企業が自社の幹部を政府中枢に送り込み、企業が有利になるように法制度改革を行う。その後再び企業に戻って出世し私服を増やす仕組み。つまり企業役員と政府官僚を交互に行き来し、自分たちの利益になるように仕向ける。

ラムズフェルドはフォード政権で国防長官を務めたあと、大手製薬会社などの重役を歴任。

ついにはフォード政権で首席補佐官を務めたあと120を超える国に20社以上の子会社を持つ巨大エネルギー企業のCEOに就任。
テキサス州の知事だったジョージ・W・ブッシュは刑務所やセキュリティ関連など、州政府の業務を積極的に民間に委託。その後大統領に上り詰める。
2001年1月、3人はホワイトハウスにそろった。この瞬間から政府の中核にある刑務所、軍、医療の民営化が進められ、政府の完全空洞化に向かったとクラインは分析している。

=堤=

1980年はレーガンによる民営化元年と言われています。マネーが主役。

公共サービスがバサバサカットされていくと、格差が広がり、貧困大国化していきます。なので、民営化に対する批判が各地から吹き出し始めていた頃。

=伊集院=

ラムズフェルドもチェイニーも民間を行ったり来たりしてあまりにもあからさまに感じるんだけど。

=堤=

あからさまだけど、「有識者」という立場でアドバイスをくれる人といった、大義名分はあるんです。ただ、民間の代表だったら、自分の会社・自分の領域にいい形になるようにやりますよね。
教育・福祉・医療は民間でなく、ちゃんと国で監督しなきゃという意見もあったんですが、どんどん喰い込んでいく。

=伊集院=

だったら政府なんて、経済の省庁しかなくていいじゃないですか。この体制になると直接的な経済だけで動き始めるわけですよね?

=堤=

政治家もいらないじゃないですか。国防だって民営化できますから。じゃあ、国とはなにか?もういらない?ということになってしまう。
実はフリードマンはそこまでは言ってない、国がなくてもいいとまでは言ってない。しかし、それを(フリードマンの理論の都合のいいところだけ)利用したのがチェイニー・ブッシュ・ラムズフェルド。
公共サービスがある、弱い人もいる、国が助けなきゃいけない人もいるということが考えられなくなってしまった。

<同時多発テロで起こったアメリカのショック・ドクトリン>

アメリカ、そして世界を震撼させた9.11同時多発テロ。このショッキングな事件の直後、フリードマン理論の根幹をなす民営化の負の部分が明かされ、国民の政府に対する不信感が高まっていく。
「テロリストはどうやって飛行機に乗り込んだのか」
真っ先に問題視されたのは、空港セキュリティの脆弱性。
セキュリティを任されていたスタッフが民営化された企業の契約社員で、たった時給6ドルで雇われていたことが明らかになった。

また、事件現場で通信インフラに問題が発生。救出作業中に消防隊と警察の無線が切れるといった民営化の弊害が一気に噴出。政府への批判が高まっていった。
そんな中、公務員たちは一夜にして国民的英雄になった。
消防隊、警察官など公共機関の職員たちが賢明に救出作業を行う姿が報道された。
公共サービスの価値について国民が覚醒していったとクラインは述べた。
その中でブッシュ政権は巧みに新自由主義政策を推し進める。それは新たに進化したショック・ドクトリン。

フリードマン主義に徹したブッシュチームは、直ちにこのショック状態につけこみ、戦争から災害対応に至る全てを、利益追求のベンチャー事業にするという、急進的な政府の空洞化構想を推し進めるべく動き出した。ここでショック療法は大胆な進化を遂げた。
ブッシュチームは「テロとの戦い」という名目のもと、始めから民営化を念頭に置いた全く新しい枠組みを構築した。

ブッシュ政権はテロのショックによる国民の恐怖感情を利用し、警察や軍、諜報機関による監視、逮捕、拘束、尋問の権限を強化した。
その上でセキュリティー産業へ国家予算を導入。監視カメラブームが起こり、アメリカ国内には3000万台の監視カメラが設置された。新たに巨大なマーケットが生まれた。
「テロとの戦い」をスローガンに、国民の支払った税金は湯水のように民間企業に流れた。
クラインはこうした一連の動きを「新自由主義経済革命の頂点であった」と指摘した。


=伊集院=

アメリカの人たちは監視されたりするのは嫌いな代表かと思ってた。あれをきっかけに「そんな事言ってる場合じゃない」ってなった。


=堤=

あれは私も一番ショックで、なんで自由の国アメリカが急に全部一夜にしてなくなって許されるんだろう、これがショック・ドクトリンだったんですね。アメリカの繁栄の象徴だったツインタワーが崩れた。このショックはものすごかったんです。


=伊集院=

すごさで一旦は警備の人たちに給料をろくに払ってないとか、経済だけを追求して民営化したのが間違いだったとかの方に行くわけですよね。「強い政府いてくれ」って。

=堤=

行きかけたところで政府が別の要素をそこに投入した。何かというと、外の敵なんです。
「テロリストという新しい敵がアメリカを狙っている」
「いつ次のテロがあるかわかりませんよ」
と毎日毎日テレビでじゃんじゃん流したんです。そうするともう私達怖くて怖くてそのことしか考えられなくなったんです。そして、セキュリティー。
「皆さんの要望通りに治安を国の予算で守りますよ」
といって、セキュリティー業界に湯水のようにお金を入れ始めたんです。その頃わたしたちはみんな、
「どうぞお願いします。カメラを私達の方にももっと付けてください」
見張られてるのはテロリスト予備軍であって私達じゃない、って。
政府の側は治安を守ってますということで、危なそうな人を片っ端から逮捕したりしてたんです。
ある日突然番組のキャスターが降板させられてる、大学教授が逮捕されている、そういうことがどんどん起こるようになった。9.11で政府が安全保障の名のもとに、
「国民のデータを集めるのが愛国的行動でしょ」
と。例えばブログだとかFacebookだとかと契約したんです。しかもこれが秘密裏じゃないと意味がないですよね。私達が知らない間に情報が全部とられることが正当化されてしまったのが9.11ショック・ドクトリン。大規模な。

テロとの戦いは

①時間の制約

今までは戦争というのは国と国の間で行われるものだった。ところがテロとの戦いって、終わりがないんです。世界の果てにたった一人のまだテロリストがいれば、テロとの戦いはまだ続いてるんです。言い換えると軍事予算が無制限にだせる。

②空間の制約
テロリストというのは個人なので、国境がない。
ここの国を攻撃したい、と思えば
「テロリストいますよね」
これで攻撃できる。
軍事産業やセキュリティー産業にとってはフリーパスと手に入れたようなもの。

=伊集院=

国防費とか軍事費が上がるわけでしょ?言い方は悪いけど、よく出来てる。

=堤=

さらにですね、軍人雇うじゃないですか、ところが軍人さんって公務員なんでお金がかかるんです。なのでさっきの回転ドアトリオが考えたのは
「派遣社員にすればいいんじゃないか」
軍人の人件費の部分を民営化していくんです。

<2003年イラク攻撃>

9.11同時多発テロからおよそ1年半後の2003年3月、アメリカブッシュ政権はイラクを攻撃した。
「イラクは大量破壊兵器を保有している。サダム・フセインは民主主義の敵だ」
と主張。
アメリカ軍はこのときの作戦を「衝撃と恐怖」と呼んでいた。
これは「敵の国民の抵抗の意志に直接狙いを定めて」巧妙に練られた心理作戦だとか彼らは主張する。つまり、混乱と退行を引き起こすための感覚遮断と過負荷だ。敵の状況把握力や認知力を麻痺させ「敵を完全に無能な状態にする」

イラク国民を恐怖の底に突き落としたアメリカ軍はバグダッドに入る。イラク国内では略奪行為が行われていた。アメリカ軍はこれを意図的に放置。博物館やモスクから重要文化財が持ち去られていく様子を無視した。

クラインは文化や伝統、歴史、宗教など人々の民族的アイデンティティを白紙状態にしようとしたと分析している。

その上でブッシュ大統領はイラクに国防総省傘下の連合国暫定当局(CPA)を設立。新たなルールでの統治を進めた。

CPA代表に任命されたのは9.11直後にテロ対策のコンサルティング会社を立ち上げたポール・ブレマー。ブレマーはフリードマン理論に沿って徹底的にイラクの経済改革を行う。
・国営企業200社を即座に民営化
・貿易を自由化
外資に搾取され尽くしたイラクは昏迷状態に陥り、反対勢力との間で泥沼の戦闘状態に入った。
クラインは、CPAがイラク国内の復興や治安維持に力をいれず、経済面の政策だけに偏っていたことを指摘する。

イラク復興の壊滅的失敗は、最も破壊的なしっぺ返し・・・・すなわち、イスラム原理主義の台頭と宗派対立の激化を招く直接的原因の一つとなった。占領当局が治安維持などの最も基本的な業務すら遂行できないことが明らかになると、その空白を埋めたのはモスクや各地の民兵組織だった。

イラクで試された戦争と再建の民営化モデルはその後ビジネスへと変化していく。

アメリカ主導による攻撃を受ける可能性のある国を想定。アメリカ政府はその国の復興計画を民間業者に発注すると発表。まだ破壊されてもない国の復興計画を企業に作らせ、しかも政府が公的資金で契約するという新たなモデル経済が誕生した。

=堤=

占領したところでもビジネスにする。復興のところもビジネスにする。全部ビジネスなんですね。例えば占領のところというのは今までだったらIMFとか世界銀行とかいくつかの国が交渉に当たるとか、交渉のステージが必ずあるわけですね。そのステップをすっ飛ばす。全部民間にビジネスとして発注します。爆撃・占領・復興って誰が決めたのか?アメリカの財務省。アメリカのアメリカによるアメリカのためのビジネスということで非常にスピーディーにやってしまった。破壊して復興するっていうのが先物商品になってしまって、復興計画を先に作っておいて、国の予算で発注しますよね。するとあとは破壊を待つだけですよね。

=伊集院=

安易な考えだと、経済的が復興すると豊かになるんだから、それでいろんなところも全部復興するんだろうって、雑にぼくは考えていたけれども、そこに強烈な貧富の差みたいなものももたらされていくとなると・・・家族を失って行き場がない子どもだとか・・・もう元に戻らないですよね。

=堤=

そうなんですよ。商品になってしまったということは、復興のウエートは結構低いんですね。なぜこのとき新植民地主義って言葉が生まれたかって言うと、現地の人はそこに参加してないんですよ。イラクの政府だったりイラクの公務員だったり国内企業の社長さんだったり被災者だったりそういう人たちの声は一切蚊帳の外なので。

じゃあ誰が入ってきたかと言うと、アメリカのファストフードの最も有名なチェーン店が入ったりイギリスの石油会社が投資してきたり、イラクという白紙になったところが、まるで新興株と言わんばかりにみんな入ってきて草刈り場になった。

もう一つは、アメリカの納税者。

莫大なイラク復興の予算が国会で承認されてそっちに流れた。その分社会保障が減らされます。だからアメリカの国内はますます貧困大国化する。だからこのとき間違ってはいけないのはアメリカが加害者でイラクが被害者ということではないんですね。アメリカ国内でも市民が被害者になっている。


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