書き起こしシリーズ NHK「100分で名著」より
ショック・ドクトリン (THE SHOCK DOOCTORIN)
副題:慘事便乗型資本主義の正体を暴く
著者 ナオミ・クライン
解説 堤未果(ジャーナリスト)
聞き手 伊集院光
第4回 日本、そして民衆の「ショック・ドクトリン」(最終回)
解説 堤未果(ジャーナリスト)
聞き手 伊集院光
第4回 日本、そして民衆の「ショック・ドクトリン」(最終回)
<はじめに>
ジャーナリスト、ナオミ・クラインは復興の名のもとに企業が利益を求めるあまり、被災者の救済をなおざりにする様子を暴き出した。しかし一方で市民たちは立ち上がり、ショック・ドクトリンを跳ね返した事例も紹介する。ショック・ドクトリンを回避するための手段とは?災害大国日本に住む私達へのヒントを読み解く。
<ニューオリンズのショック・ドクトリン>
2005年8月、最大級の大型ハリケーン・カトリーナがルイジアナ州に上陸。ニューオーリンズの8割が水没し、被災者は23000人にものぼった。家を失った被災者たちはスタジアムに取り残され水や食料も圧倒的に不足する中、ショック状態に陥っていた。壊滅状態のニューオーリンズに政府がショック・ドクトリンを行ったことをクラインは明らかにした。
被災地の復興事業を政府は民間企業に委託。対処に受注したのは多国籍企業と民間軍事会社。企業の経営陣として元政府高官が在籍。彼らは「回転ドア」を通って総額16億ドルの復興予算の8割を独占した。その他復興事業契約を結んだ上位20社も議員たちに献金をしていた企業ばかり。巨額の献金と引き換えに議員たちは規制緩和を実施。利益が企業と政府関係者の一部に集まり、下請け業者の一部には低い賃金しか渡されていない。そんな理不尽な状況が生まれたと、クラインは分析した。
民間主導の復興作業はなかなか進まなかった。
公立病院、公共住宅、電気、水道が復旧されないまま多くの住民が元の家に暮らすことができなくなっていた。
学校、住宅、病院、交通システム、そして街のあちこちで復旧しないままの水道。ニューオーリンズのこうした公共空間は再建されなかったと言うより、ハリケーンを口実に「消去」されようとしていた。
フリードマン理論に飛びついた政府や財界人たちは、公立学校のシステムを再建・改良するかわりに公的資金で立てた学校を民間企業が運用するというチャータースクールを作っていった。
公立学校の教職員組合に所属していた教師4700人は全員解雇。チャータースクールに採用されても契約社員になるしかなかった。また、チャータースクールは生徒の成績によって順位づけられ政府の予算が決められるので、学校同士の競争が激化。生徒全体の成績を維持するためカンニングを許容するなど不正も見られるようになった。結果的に123校だった公立学校は4校を残してすべて潰された。
こうして多くの復興事業が民営化されたことによって、富裕層と貧困層の格差が拡大していった。
=堤=
元々それまでの民営化の切り捨てによって、公共のもの、例えば公立の学校だったり公営住宅だったり、かなり劣化してたんです。そこを一気に作り変えると。
チャータースクールと言うと1960年代にすごくいいイメージがある方もいらっしゃると思うんですね。公立の学校では教えられない自由な形の保護者や地域で作る学校だったんですけど、ビジネスにかわっていくんですね。
=伊集院=
ぼくは民営化が全部悪いとは思わないんですけど、競争の原理を入れることでより良い教育が受けられるようになりますよ、とか、強烈な競争原理の先にあったのが、カンニングしたけど見逃しましょうみたいな・・・
=堤=
先生が堂々とカンニングさせるんですね。天井に映写機で映したり、手に答えを書かせたり。学校の成績を数値で上げないと学校自体に予算が入らないという競争があったんです。それはただ数値だけの競争なので、落ちこぼれの子はできるだけ退学してもらったほうが平均点は上がる。そうすると公教育の意味ってなんだっけ、という話になってしまうわけです。例えばテストの点じゃない学校で得たもの、先生から学んだこと、友だちと一緒になにかを成し遂げることでついた自信とか、そういうのはテストの点にでない。だけどもこれが競争で民間のビジネスになってしまうと、そこが価値のないものになってしまう。
=司会者=
堤さんはこのニューオーリンズの状況が東日本大震災と共通するものがあるとお考えなんですね。
=堤=
ニューオーリンズで最初にされたことが「復興特区」を作ること。すぐに復興しなくちゃいけないんですけど、例えば法律とか、今までの企業とかと一つ一つ交渉してたら間に合わない。そこで、ショック・ドクトリンでいう、民主主義のフリーゾーンをいつの間にか作るわけです。
東日本大震災のあとでも、例えば海が壊滅的になって漁業をやってる生産者さんたちが家もなくして仕事もなくなって大変だった。そのときに漁業組合があるわけですね。漁業組合って地元の組合員さんたちの生活を一緒に何十年先まで維持していくことと、海の環境のバランスをすごく考えて、今日は漁に出ましょう、今日はお休みしましょうねとルールを作ったりしているわけです。復興特区にしたときに、それは民営化しましょう、と、その権利を民間に開放したことによって、被災した漁業者さんたちは、そこに雇われになってくださいということになって、
「はたしてサラリーマンでいいのか?」
みたいな声が現地では結構出たんですね。だからこのときに漁協のような協同組合みたいなもので住民の声が平等にでるもの、それからビジネスの分野で便利だからというので民間を入れるか、ということのバランスを良く見ていかなくてはいけない。そうでないとニューオーリンズのようなことになってしまう。
=司会者=
ナオミ・クラインは「ショック・ドクトリン」の中で日本のことをあまり書いていないんです。気になりますけど。
今回堤さん監修の元、日本での新自由政策の流れを簡単にまとめました。
<日本での新自由政策の流れ>
日本における新自由主義経済も「民営化」というキーワードで進められて行った。
日本で最初に大々的な民営化を行ったのは80年代の中曽根政権だった。世界的な潮流に乗って新自由政策を推し進めた中曽根首相。彼は国鉄・電電公社・専売公社を一気に民営化した。
その後、「官から民へ」を謳い文句に郵政民営化も実現。新自由政策は効率化が進む、無駄をなくすなど良い面もある反面、弱者や相対的に力の弱い地方などに手が届かないと指摘する声があがっている。
民営化を積極的に進めてきた日本で、わたしたちは危険なショック・ドクトリンが行われるかどうかを見極めることができるのだろうか。
=伊集院=
立場によって功罪の差が激しく出るので、どの民営化が良かった悪かったというのは難しいところですね。
=堤=
個々の事例でこの民営化が良かった、悪かったという議論をするよりも、チェックポイントがありまして、
「有事のときに機能するか?」
例えば水道を民間運営にしたときに日本のように自然災害がしょっちゅう起こる国で大丈夫ですか?採算が取れなきゃ供給しませんじゃ防災的にはNGですよね。それから、数値で価値が測れないところ、教育や医療。こういうところはちゃんと守れているのか?検証ポイントって利益やサービスじゃないんです。広く長く深く検証するということが必要。
それから進めていくとき民営化するにしても、地域住民がそこに当事者として入っているか?要は作っているプロセスを民主化すること。それができれば民営化もいい形でできるんです。
=伊集院=
災害があったときに復興しよう、作り直そうというときに、ちょっと大胆なことができるんじゃないかということ自体が全部悪いとは思わない。だけどもその時に冷静さを失わないということがすごく大事。
=堤=
そのとおりですね。そういうときほど、2つ大事なことがあって、
一つは
・どんな法律が国会で通っているか
ショックになったらサッと法律を変えろ、すぐ出せるように準備しとけ、と、どんな政府も準備してますから、基本的に。ですからショックがあったらまず国会を絶対チェックです。
・もう1回ゆっくり考えてみる
焦るんですけど、ゆっくり考えてみたりというのがすごく大事なんです。ショックがこれからまだまだ来ます。この時にフリードマン理論が一番よくしたやり方は「選択肢をなくす」なんです。
「テロとの戦い、賛成しないんなら君もテロリスト側だよ」
それから例えばパンデミック。
「この薬を飲むか?そうじゃないと死んじゃうよ」
選択肢があるかどうか必ずチェックすること。これがすごく大事です。
=伊集院=
賛否両論のことってあるじゃないですか。自分もどっちかわかんないって状況だなってことが。急激に動いたりする時にいっぺん疑ってみる。自分もかなり動揺してるぞという事がわかっていると、ちょっとチェックできるかもしれない。
=堤=
立ち止まるっていうのは大きな力があると思います。「スピード勝負」の逆は「立ち止まる」ということ。
<ショック・ドクトリンからの自己防衛>
クラインは2004年12月、スマトラ沖地震による津波被害をきっかけにショック・ドクトリンが行われたことを明らかにする。大津波によっておよそ21万人の命が奪われ被災者が120万人にのぼった。このショック状態に便乗し政府は被害にあった住民たちを住んでいた場所から移動させ、海外のリゾート企業に土地を売却しようとした。
漁師たちは海からの恵みで十分に家族を養っていけたが、それは世界銀行などの国際機関の基準から見た経済成長には繋がらない。海岸にはもっと収益の出る利用法があるはずだというのが政府の見解だった。
この青写真からすっぽり抜け落ちていたのが津波の被災者、すなわち海辺で生計を立てていた何百もの漁師の家族だった。
しかし、被害を受けたタイ沿岸には抵抗することでショック・ドクトリンから身を守った人がいた。中でもモーケン族という先住民の行動は圧巻だった。津波に流された村を数ヶ月のうちに自らの手で再建していった。
※モーケン族(Moken)とは、ほぼ一年中海上で過ごす海洋民族。モーケンやモーケン人とも呼ばれる。モーケンは自称で、ビルマ語ではサロン族と呼ばれる。
タイのケースが他と違うのは、被災者たちが政府の口約束を信用せず、避難所でおとなしく公的な復興計画を待つことを拒んだことだった。
津波から数週間のうちに、何千人という漁民が集結し、「再侵入」と称する行動に出た。
彼らは開発業者に雇われた武装ガードマンもものともせず、各自が手にした道具でかつて自分たちの住まいのあった区画を囲った。
先住民たちは野営しながら土地の所有権を主張し、政府と交渉した。長く粘り強い交渉の末、沿岸部の一部土地の放棄と引き換えに、彼らは先祖伝来の所有権を勝ち取った。
このことが報道されると、この村を訪れる人々がいた。
アメリカ・ニューオーリンズでハリケーンの被害にあった被災者のグループだった。
ニューオーリンズの代表はタイの村を視察し、復興のスピードの速さに驚いた。そしてこう告げた。
「国に戻ったら、あなた方をお手本にして頑張りたい」
帰国した被災者たちは復興に必要なことを住民同士で話しあうシステムを作り出す。政府に頼らず自分たちの手で地区ごとに委員会を作り、民主的に話し合うことを始めた。そして地域にとって一番いい方法を自分たちで決めて、いくつかの問題を解決していった。
クラインはこの本の最後にこう記している。
自力で復興を目指す人々は常にその場にあるものを・・・残った人手であれば誰でも、壊れていなければどんなサビ付いた機具でも・・・有効に使う。
=伊集院=
この本を知る前にこのニュースを見ていたとして、ちゃんと判断できたかな?いいじゃないの、経済も潤うし、なんて思ってたかもしれないけど、本のことを知って、見え方が変わりました。
=堤=
ナオミ・クラインさんのこの本は、財界とか勝者の歴史とは違います。弱者の略奪された側のもう一つの歴史です。スマトラ沖地震を見たとき、民間がるのと元々いた人がやるのとどちらがいいというのではなくて、復興のプロセスにこの人たちが参加したというのがすごく大事だった。
それからこれ「逆ショック・ドクトリン」にもなっていて、ショックがあったからこそニューオーリンズの人は
「自分たちは貧しい地域で政府がある程度助けるのは当たり前だと思っていたけどそうじゃないんだ」
という覚醒があった。
これは日本にもヒントになることで、割と私達は政府を信頼してたりとか主要メディアを信用している人が多いんですけど、お任せじゃなくて自分たちが作っていく主体なんだという意識が出てきた地域が巻き返しをしている。それはショックがあったからこそなんですね。
=伊集院=
少しでも成功例があるとね、行動もかわってくるでしょうしね。
=堤=
過去からのいいものはちゃんと残して、もっとアップデートしましょうよっていうのは人間の知恵なんですね。だから知識ではなくて知性を使う。
ナオミ・クラインも言ってるんですけど、先程私たちはすぐ結果を出したくなる時代にいるのでショック・ドクトリンで使われやすいマーケティングとして、こっちが正義こっちが悪という二元論に持っていく報道とかマーケティングをしていくんですよ。「誰が悪いんですか?」「誰が裏にいるんですか?」ということを聞いてくる人がよくいるんですけど、そういう考え方をすると、取り込まれやすくなる。正義とか悪とかいうのは、どの時代で見るとかどちらの側から見るかということで変わりますよね。
ショック・ドクトリンの裏側誰ですか?フリードマンではない。欲望によって変わってますよね。犯人探しみたいなことをしてしまうと私達は分断されてしまって、それこそ広く深く見ることができなくなってしまう。早く敵を特定したいって思ってしまうと、9.11のときのアメリカみたいになってしまう。
=伊集院=
この先もっと深刻なのは、ヘッドニュースがぼくの好みに合わせて入って来るという世の中は、ぼくが革新派だったら、保守のいうことは一つも入って来ないんですよ。ぼくの好きな球団をぼくのスマホは知ってるから、ぼくの好きなチームはやたら勝ってるんじゃないかぐらい、ぼくの好きなチームのスポーツニュースばっかりぼくのスマホは表示するんです。
今後よっぽど気をつけてないとコントロールされやすくなってるし、分断もされやすくなっているし、自分が嫌だと思う意見を目にする機会も減ってくるから、心の底からこういうショック・ドクトリンといやり方がありますよっていうことを知っておく、今自分は冷静ですか?何を正しいと思いますか?を持ってないと、なんかさらわれちゃう気がするね。
=堤=
真逆の考え方の政治のブログをを読んだりね。間を取って話し合っていい方法を考えていくっていうのが結構めんどくさいけど民主主義だったりしますよね。
究極行くと、民主主義もめんどくさくなる。トップダウンが楽になってくるのでそれは脳トレをしていかなきゃいけない。
=伊集院=
下手なお化け屋敷よりショックがでかいですよね。
結構色んなところに仕掛けがあって、その仕掛けと知らずにぼくはこの先とんでもない落とし穴のある道を歩いてるんじゃないかという気がしますね。この本のことは心の片隅に置いておきたいと思います。
2 件のコメント:
西野先生、こんばんは!
私は港中学校で西野先生に三年間音楽を教えていただきました。最近ブログの存在を知ったのですが、とってもユーモア溢れるブログで、最近は時間があれば西野先生のブログを読ませていただいています。私は今大学生なのですが、西野先生のご活躍を見て、私ももっと色々なことにチャレンジしようと気を引き締めています。ブログとYouTube(特にフリートーク)楽しみにしています!!お身体にお気を付けてお過ごしください。
お名前はわかりませんが、
・私をおぼえていてくださって
・YouTubeを見てくださって
・ブログをご愛読いただき
・コメントまでいただく
こんな幸せなことはありません。
おわかりのようにブログもYouTubeも見てくださる方はとっても少ないですけれど
今日のような幸せなことがあるのが、やりがいであり醍醐味です。
ついでと言ってはなんですが、「FMかほく」のパーソナリティもやっていて、
そちらもYouTube配信があり、いつでもご覧いただけるのでどうぞよろしく。
それからブログでご存じかと思いますが、歌の会やコンサートもやってます。
次のコンサートは7月16日ですがお客様が集まりそうもなく危機的な状況です。
まあ、それはそれできっとブログのネタにしてしまいますけどね。
これからもどうぞよろしくお願いします。
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