このお話は、2000年に「美女エッセイPART1」掲載した作品です。印刷物として販売したもので、現在のブログとは違って語尾が「だ。である」調です。
東京駅8000円事件 その1
2000年5月13日(土)
私は奏楽堂日本歌曲コンク-ル一次予選を受けるために東京へ行き、終了後すぐに、その日の最終の新幹線
20:08分発 あさひ3号
に乗るために、東京駅のプラットホ-ムに立っていた。
少し早くついたので、まだ15分ほど電車を待っていなくてはならなかったのだが、かなり疲れていた私は、特に何をすることもなく立っていた。 その時、24、5歳の青年が私に声をかけてきた。
「この電車に乗られるんですか?」
「はい」
「どこまでですか、もしかして石川までとか?」
「はい、石川までですけど.....」
「えっ!ほんとうですか?金沢市に住んでらっしゃるんですか?」
「住んでるのは金沢市の隣の宇ノ気町ですけど.....」
「一生のお願いがあるんです!本当に本当にお願いです!」
「そう言われても内容によります」
「話すと長いんですけど、....」
青年の話を要約すると、
私は奏楽堂日本歌曲コンク-ル一次予選を受けるために東京へ行き、終了後すぐに、その日の最終の新幹線
20:08分発 あさひ3号
に乗るために、東京駅のプラットホ-ムに立っていた。
少し早くついたので、まだ15分ほど電車を待っていなくてはならなかったのだが、かなり疲れていた私は、特に何をすることもなく立っていた。 その時、24、5歳の青年が私に声をかけてきた。
「この電車に乗られるんですか?」
「はい」
「どこまでですか、もしかして石川までとか?」
「はい、石川までですけど.....」
「えっ!ほんとうですか?金沢市に住んでらっしゃるんですか?」
「住んでるのは金沢市の隣の宇ノ気町ですけど.....」
「一生のお願いがあるんです!本当に本当にお願いです!」
「そう言われても内容によります」
「話すと長いんですけど、....」
なんとしても今日中に、最悪でも明日の朝までに金沢市まで帰らなくてはならないのに、お金がない。なぜかと言うと、キャッシュカ-ドが割れてしまってお金がおろせなくなってしまったからだ(そう言って、割れたキャッシュカ-ドを見せる)。友人に連絡を取ろうとしているのだが、どうしても携帯に通じない。今日帰れなければ、せめて安いホテルに泊まって明日の朝までになんとかしたい。そういうわけでお金を貸してほしい。できれば金沢までの電車賃全額。
実は私はあまりお金を持っていなかった。私自身金沢駅に停めてある車をパ-キングから出すのにもお金が必要だし、途中無一文というのも心細いので、貸せるとしてもごくわずかだ。財布を確認してみると、何とか貸すことのできそうなお金が8000円ほどあった。電車賃全額にはとても足りない。
その事を青年に告げると
「それじゃ、ホテル代だけでも」
青年は、この駅に24時間やっているキャッシュコ-ナ-があるかもしれないから、あったらそこでお金ををおろしてくれないかと提案してきた。 私は先にも述べたように、とても疲れていて、断ることがとても面倒になっていたので、その提案を受けた。青年は急いで駅員さんに場所を聞きに行ったが、この駅には無いと言われ、しょんぼり帰ってきた。
その事を青年に告げると
「それじゃ、ホテル代だけでも」
私は貸すことのできる上限の8000円を青年に渡すことにした。
私は私の名刺に
「5/13 8000円お貸ししました」
と書いて青年に渡した。
青年は私に免許証を見せたが、私は青年の名字と、住んでいる町の名前だけを簡単にメモして、電話番号、仕事など詳しいことは何も聞かなかった。
もし、青年が本当に困っていて借りたのならば、こちらの連絡先は教えてあるわけだから、当然返しにくるだろうし、詐欺師ならば、免許証の住所になんて現在いるはずもない。電話番号を聞いたところでうそに決まっている。それに、私はこのことで一層疲れ、詳しい青年の連絡先を書き取るなんて、本当に面倒に感じられた。
青年は私に
「8000円で逃げたり絶対しません。信じてください。必ず返しに伺います」
と言い、私は
「良いホテルが見つかるといいですね」
と言って電車に乗り込んだ。
私がこのような行動を取ったのには、小さなわけがある。
それは私が高校生のとき。
その朝急に降り出した雪のため、いつもは自転車通学だが、その日バスで行くことにして、慌てて家を出た。
バスをおりる直前になって財布を持っていないことに気付いた私は、真っ青になった。恐る恐る運転手さんに言うと
「ちょっと事務所まで行ってもらいます」
と、とても怖い調子で言われた。
その時、一番前の席に座っていたおじさんが
「これで」
と、バス代の200円(位だったと思う)を出してくれた。
運転手さんの怖さに震え上がっていたのと、その時差し伸べられた親切とのギャップで、どうしていいか判らず、お礼の言葉すら発することのできない私の横から、運転手さんが
「ちゃんと住所聞いて!」
と、口を出した。
私はその時、やっと我にかえって住所を聞いたが、おじさんは優しく
「いい、いい」
と、ちょっと恥ずかしそうに手を振った。
私はお礼を言って、バスをおりた。
この出来事から、38歳になるまで、私はずっと
「いつか、だれかを助けてあげられることになったら、そうしよう」
私は私の名刺に
「5/13 8000円お貸ししました」
と書いて青年に渡した。
青年は私に免許証を見せたが、私は青年の名字と、住んでいる町の名前だけを簡単にメモして、電話番号、仕事など詳しいことは何も聞かなかった。
もし、青年が本当に困っていて借りたのならば、こちらの連絡先は教えてあるわけだから、当然返しにくるだろうし、詐欺師ならば、免許証の住所になんて現在いるはずもない。電話番号を聞いたところでうそに決まっている。それに、私はこのことで一層疲れ、詳しい青年の連絡先を書き取るなんて、本当に面倒に感じられた。
青年は私に
「8000円で逃げたり絶対しません。信じてください。必ず返しに伺います」
と言い、私は
「良いホテルが見つかるといいですね」
と言って電車に乗り込んだ。
その朝急に降り出した雪のため、いつもは自転車通学だが、その日バスで行くことにして、慌てて家を出た。
バスをおりる直前になって財布を持っていないことに気付いた私は、真っ青になった。恐る恐る運転手さんに言うと
「ちょっと事務所まで行ってもらいます」
と、とても怖い調子で言われた。
その時、一番前の席に座っていたおじさんが
「これで」
と、バス代の200円(位だったと思う)を出してくれた。
運転手さんの怖さに震え上がっていたのと、その時差し伸べられた親切とのギャップで、どうしていいか判らず、お礼の言葉すら発することのできない私の横から、運転手さんが
「ちゃんと住所聞いて!」
と、口を出した。
私はその時、やっと我にかえって住所を聞いたが、おじさんは優しく
「いい、いい」
と、ちょっと恥ずかしそうに手を振った。
私はお礼を言って、バスをおりた。
「いつか、だれかを助けてあげられることになったら、そうしよう」
と決めていた。
あのときのおじさんに直接恩返しはできないけれど、世の中、順繰りにこうしていけばいいのではないかと。
あのときのおじさんに直接恩返しはできないけれど、世の中、順繰りにこうしていけばいいのではないかと。
そのチャンスがついに訪れた。
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