東京駅8000円事件 その3 (2000年5月の出来事)

 このお話は、2000年に「美女エッセイPART1」掲載した作品です。印刷物として販売したもので、現在のブログとは違って語尾が「だ。である」調です。


東京駅8000円事件 その3

2000年12月28日。午後。
20世紀も終わりに近づいたこの日、ついに東京駅8000円事件に結末が訪れた。
私が毎年恒例の
「西野真理オリジナルお正月飾り」
を玄関にしていると(今年のはなかなかの出来栄え)、結構ハンサムな郵便局のお兄さんが、現金書留を持ってきてくれた。
「ハンコお願いします」
と言われ差出人を見ると、知らない男性の名前。首をひねっているとハンサムなお兄さんは
「心当たりありませんか」
と、ちょっと困った様子。
が、その瞬間、
「アッ、あの人だ」
「よかったですね、わかって」
「ええ、私ちょっと騙されてて、そのお金が返ってきたみたいです」
「へえ......?詐欺には十分お気をつけください」
ハンサムなお兄さんはよく事情が判らないであろうに、上手に私に話を合わせて帰って行った。
 
現金書留封筒を開けると、貸した8000円と、ワ-プロで書かれた手紙が同封されていた。
 以下にその文を書き写すことにする。
 (点、字、改行等原文のまま)
 
 
西野マリ様
先日来、彼方様には、息子、○○が多大なご迷惑をおかけ致しました。
息子の不謹慎な生活態度から、同じような経過で多数の方々にご迷惑をかけました。皆さんは、息子の話に同情して親切でお金を貸してくれました。息子のしてきたことは、それを裏切る行為であり決して認められることは出来ません。さる、19日に判決が下りました。現在、本人は拘置所で拘束されています。近日中に他の刑務所に移監され2年は反省の償いをすることになりました。判決後の本人からの手紙にもありましたが、皆さんに多大なご迷惑をおかけしましたことに深くお詫び申し上げます。
これからの弁済にあたっては、本人が実行すべきであります。しかし、現状から当分は困難であります。
先のあなた様からの申入れがありました弁済について、大変おくれまして申し訳ありませんが一つ区切りがつきましたので、本日、金、8,000円を弁済させて戴きますので領収お願い致します。
本当にご迷惑をおかけ致しました。深くお詫び申し上げます。
 
           平成12年12月27日
                        父 ○○○○○
 
これを読みおえて、私は父親に返事を書いた。
(以下、原文のまま)
 
前略
本日、息子さんに御貸ししていた8,000円、確かに現金書留で受領いたしました。
実は私は、中学校で教員をしており、息子さんにお会いした翌々日の月曜日の朝(2000年5月15日)この出来事を生徒に話しました。
その時点では、私は息子さんに騙されたとは思っていなかったのですが、その話をした途端、殆どの生徒が
「先生は騙されている。いい大人が、見ず知らずの人にそんなお金を貸すもんじゃない」
と言われ、結構ショックを受けました。
それでも心のどこかに信じる気持ちがあり、また、それほどの高額でもありませんでしたから
「これくらの額なら、人生勉強に払ったお金だとあきらめよう」
という気持ちでしばらくは過ごしました。
しかし、生徒にも時々
「先生、あのお金どうなった」
と聞かれたり、私自身、納得したい気持ちもあって、夏休みの終わりに金沢東警察署へ行ってみることにしました。
 
事情を話すと警察の方は、すぐにだれのことと言い当て、(この急展開にはさすがに驚きましたが)○○さんへお電話をつないでくださいました。○○さんとお話していうるちに、息子さんを思われる気持ちや、大勢のお金を貸した方への返済でお困りであろうことが察せられ、何だか大変恐縮してしまいました。また、かなりの高額を貸しておられる方もあるとお聞きしましたし、成人されている息子さんのことに関して、親に弁済義務はないわけですから、私にお金が戻ってくることはないだろうと思いながら電話を切りました。
20世紀も終わりに近づいた本日、息子さんを思い、お金を貸した私他沢山の方を思い区切りをつけて下さったことに感謝いたします。お金に添えられた○○さんのお手紙も大変胸に響くもので、心中をお察しすると言葉もありません。
ぜひ息子さんが更正されることをお祈りいたしております。
                             かしこ
          2000年12月28日  西野真理
 
 
この事件は、決してよい話ではないけれど、沢山学ぶものがあり、またいろいろと話題性もあり、2000年を思い出す時、欠かせない出来事であることは間違いないだろう。
 
 
さて、先程の話だが、現金書留を開けて中を見ながら子供たちに、
「ねえねえ、あの8000円返って来たよ!」
と喜ぶ私に娘が言った一言。
「エッセイ書かなきゃ」

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